シュレティンガ―・無職

私は無職なのか、それとも。

5月10日であろう

久しぶりに街を歩いていた。

街にはたくさんの人間で溢れかえっていた。

たくさんの人間はなんだか誇るように早足で、みんな何かしらの有職をしてるように見えた。有職は人を機敏にするのかも知れない。すれ違う人達からは、シュンシュンと速そうな風切り音が聞こえる。わたしはそのうねりに圧倒されて、動けなくなりそうになる。ゆっくりと視界が俯瞰されいく。早すぎて残像が生まれているのだろうか、もしかしたら、わたしだけがもたもた取り残されて、もう既にこの街に漂っているのは有職者達の残滓なのかも知れない。夜の都心で、テールランプの気分だ。わたしはまだ、無職にもニートにも、それから    にもなれないでいる。


横断歩道を歩いていた時、よろめいてハイパー有職者ストームにぶつかってしまった。ハイパー有職者ストームはわたしとの衝撃で、人間の姿へと再形を始めて、やがてひとりの男性へと型を変えた。わたしは反射的に「すみません」と言う。ぶつかった人に対しての最適解だと思う。すると男性はわたしを指差して、ポイズン!ポイズン!と金切り声を上げた。ポイズン!ポイズン!恐怖!

それから観測者がどうとか、おそらくまだ見ぬ上位存在について語り出した。よく見ると、彼はアニメキャラクターの缶バッジを沢山装備していて、くさりかたびらみたいになっていた。頑丈そうだった。おそらく、わたしの奇襲はつうようしまい。恐怖に満たされたわたしは、もう一度「すみません」と告げる。呼応するようにポイズンが響く。間。すると、男はひとしきりのポイズンで満足したのか、何事もなくハイパー有職者ストームに還っていった。そこにあるものは、もうただのうねりだった。間。何事もなかったように、日常が非日常を片付けてゆく。


わたしは、地球ぶっこわれろと思った。