シュレティンガ―・無職

私は無職なのか、それとも。

5月19日であろう 〜食欲とわたし〜

ベーグルに何かを挟もうと思ったら、それまで隠れていたわたしの食欲がふつふつと湧き上がり、自分がお腹が空いていたことに気づかされた。気づいているのは自分自身のようで、本当は食欲と共通の友人である別人格のわたしが、ふたりの仲を取り持つために肩をゆすって、食欲が暴れているのを教えてくれているのかも知れない。別人格はいつだって、わたしに良い生活のヒントをくれるのだ。

ねぇ、ベーグルに何かを挟んだ方が良いんじゃない?

その方が食欲も喜ぶと思うよ?


別人格体に諭されたわたしは、早速食欲に話を聞きに行く。食欲の部屋は萌葱色のドアが目印となっていて、ドアノブに掛けてあるプレート状の看板には、達筆な字で「食欲」と書かれている。ドアの前に立ち、耳をあてると食欲のうなり声が確かに聞こえる。こりゃまずいと思いドアを開けると、散散とした部屋で食欲がダンベルスティッフレッグドデッドリフトをしていた。わたしは食欲と向き合い、対話する。

あの、ダンベルスティッフレッグドデッドリフトをしているところに、申し訳ないんだけど。

返事はない。

お腹が空いたと思って。

ベーグルに何かを挟もうと思うんだけど。

ぴたりと食欲の動きが止まる。そして沈黙。食欲はダンベルスティッフレッグドデッドリフト中に体制が固まったからなのか小刻みに震えており、その姿に罪悪感を覚える。出直そうか、ドアノブに手を掛けようとしたとき、食欲はか細い声で、サラダチキンとチーズを要求してきた。食欲はダンベルスティッフレッグドデッドリフトを再開して、またぐぅぐぅうなり声を上げた。少し弾んだうなり声だった。


わたしはベーグルを用意すると、ペティナイフで切り込みを入れる。近所のスーパーで買ったベーグルはベーグルにあるまじき柔らかさで、切り込みを入れているうちにムンクの叫びみたいな形になってしまった。でもこれは愛ゆえのムンクなので気にしない。半分にしたベーグルにサラダチキンとスライスチーズを挟み、ずいぶん迷って追いチーズをした。スライスチーズを2枚使うのは、とても勇気がいる行動である。食欲もきっと喜んでくれるだろう。