シュレティンガ―・無職

私は無職なのか、それとも。

6月1日であろう 〜インスタント酒場・蜃気楼〜

この人たちは何にならんでいるのだろうか?

おじいちゃんの箸の色みたいな雑居ビルから伸びる人の列。気になってビルの周辺を探ってみるけど、美味しそうなホットケーキを出しそうなカフェも、超ニッチ個展も開いてなさそうだ。並んでる人達のジャンルも様々で、老若男女の見本市のようだった。行列の正体を明かそうとも考えたけれど、不思議は不思議のままが良いなと思い直してスマートフォンを仕舞う。たちまち行列は背景に戻り、大きな二枚貝が見せる蜃気楼のように、わたしの意識をけむに巻くのだ。

 

行列の誘惑を超えて、さすまた柄のガードレールがある道を歩く。人通りは少なく、クルマもさほど通っていないようで、閑静な住宅街という表現の正しさを理解する。所々、ガードレールにもたれかかるように家庭ゴミがちょこんと置かれ、青いネットで覆われている。家庭ゴミは、なんとなく朝のうち回収するものだとばかり思っていたけど、この辺りの地区は時間帯が違うようだ。たったそれだけのことで、何だか異国の地に来た様な気分になって、わたしの中の二枚貝が見せる蜃気楼は情景を盛るクセがあるらしい。だけど、こんなことで簡単にトリップできることは、我ながら特な性分だと思う。

 

さすまた柄のガードレールがある道を歩く。ガードレールにもたれかかるように家庭ゴミがちょこんと置かれ、青いネットで覆われている。その脇には、えいひれ、冷奴、缶チューハイの飲み会3種の神器が鎮座している。複数個あるそれらは、この場所で飲み会が行われていたであろう距離感が見てとれる。冷奴と缶チューハイはつがいになっていて、おそらく3人の飲んべえが居たのだろう、ひとりの冷奴は口がつけられていないようで、その人の大豆に対する価値観と、ハラールに従った宗教的観念に想いを馳せるが、飲み会の主人たちは何処にも見当たらなかった。二枚貝に聞いても、我じゃないよと口をパクパクさせているので、きっとこれは蜃気楼では無いのだろう。できる範囲でゴミを片付けた自分を褒めつつ、さすまた柄のガードレールがある道をまた歩き始めた。