シュレティンガ―・無職

私は無職なのか、それとも。

6月10日であろう 〜表現の限界〜

たすけて。ルンバがベッドの下から出てこなくなった。這いつくばって、ベッドの下から手を伸ばすけど、もう少しというところで手が届かない。なんどやっても届かない。というか、ルンバが意志を持ち始めた。手が届かないギリギリのところでUターンするようになった。壁ないじゃん、そこに。わたしの手を華麗に回避するルンバ。届かない。押してダメなら引いてみろ作戦も試してみたけど、よほど居心地が良いのだろう。同じところをクルクル回って喜びを表現している。なんていうか、急に表現の限界を感じた。何故なら、このルンバとの格闘は10分は続いていたのです。手を伸ばす、届かない、手を伸ばす、Uターンするを20回はした気がする。途中で笑ってしまった程に、手が届かない。この激動の10分間を、わたしは「手を伸ばすけど、手が届きませんでしたぁ」しか伝えることができない。もどかしい。本当はいろんな感情が渦巻いていて、ルンバとの邂逅だとかそういう表現を挟むことで、あと5,000字は書ける筈なんだけど、いざブログに向き合うと「手を伸ばすけど、ルンバがUターンするんですよぅ」しか書けなくなる。どう届かないのか?何故手が届かないか?その情景を叙述的に表現なさることをブロガーは求めているのだ。でも現実のロジックは単純で手が届かないのだ。それ以外の表現があるのだろうか。わたしの腕の可動域のおはなしなのだ。本当にギリギリなのだ。もうちょっとなのだ。他に掃除してほしい場所があるのだ。でも、手が届かないしルンバはベッドの下から出てこないのだ。わたしの頭に電球が灯る。ルンバにはリモコンがあったのを思い出して、わたし秘蔵の「ようわからんBOX」をガサゴソする。ガサゴソの末に出てくるルンバリモコン。ルンバに向けてスイッチを押すと、ルンバの尊厳を奪う電気的な何かがピシャゴロンと放たれて、ルンバは真の意味で機械となった。わたしがリモコンの右を押すと右へ、左を押すと左へ動く従順な機械。手の届かなかったルンバは、あっという間にわたしの元へ帰ってきた。いや、本当に帰って来たのだろうか?わからない。ベッドの下ではしゃぐ赤子のようなルンバは、もうわたしの手の届かないところにいってしまった。