シュレティンガ―・無職

私は無職なのか、それとも。

6月30日であろう 〜村娘ファンタジア〜

目の前を歩いてきたお嬢さんの服装が随分と異世界な町娘スタイルで可愛らしかったのでわたしの異世界転生スイッチがONになってしまって、すぐさまSpotifyで「ザ・なつやすみバンド」のファンタジアを再生する。

するとたちまち世界はほんの少しビビッドになって、あらゆるものがキラキラした魔を宿す。意識は現実を理解しながら正しく否定して、あいまいになったそれらに妄想のテクスチャを縫い合わせる。するとだんだんアスファルトを踏む感触がふあふあしてきて、おそらくスーパーを目指していたであろうわたしは目的さえも見失ない、立ち止まり、再考する。

 

そうだ、明日はカーマの日だからパネの実と葡萄酒を市で買って、それからケヌルが足りなくなってきていたので川の向こうにある<聖堂>に行かなければならなかったのだ。カーマなのにケヌルが足りないと、悪いプフがやってきてしまうからね。それにしても今日は暑い。この村にも<減衰期>がやって来たのだろうか?最近はカーマの周期も短くなって来ているようだし、なんだかラクリマの輝きも燻んでいるように見える。ラクリマ周辺に漂う燻み蝶は相変わらず多いようだけど、難しいことはわたしにはわからない。わたしには今日を生きることしか出来ないのだ。市に着くと<涼しげの風>が張られていて、暑さでぽでった思考をクリアにしてゆく。何を言っているかわからないプロレスラーみたいな滑舌でがなる店主が、朝採れで質の良いガイガイの肉を肉切り包丁で小気味よく切り分けている。パネの実は痛みやすいので、粗悪品をつかまされないように慎重になる。鼻の良い獣人のマネをして目利きをするけど、全然よく分からなかった。2,800ハラ支払って市を出ると、<涼しげの風>が切れて汗が吹き出る。入堂雲だけは、異世界も現実世界も一緒のもくもくであって、その事実はわたしのファンタジアの終わりを意味していた。わたしの中の村娘は、カーマと手を繋いで光の中へ帰って行く。

さて、わたしは何処へ行くんだっけか。

エコバッグの重みが少し手に痛かった。

 

 

ファンタジア

ファンタジア

  • ザ・なつやすみバンド
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes