シュレティンガ―・無職

私は無職なのか、それとも。

5月23日であろう 〜紙拾いの君〜

駅の改札は人人人人。ごうごうとうなり声をあげる奔流は、出社ラッシュという時間帯のせいなのか、はたまた人間の気質みたいなものなのか、何も迷わず、ただ改札口に向かって流れてゆくだけだった。

わたしは駅の出入り口に併設されている小さなドーナツショップで朝ドーをかましていた。本来なら、この優雅で甘美な時間を楽しむべきなんだろうけど、駅においてはこの奔流こそが、人間が嗜むべき行為に思えてしまい、ドーナツが喉につっかえてしまう。窓から見える情景は、わたしに謎の嫌悪感を与えていく。奔流に対して、チラシを配るお姉さんが居る。どうやら近くに新しい居酒屋がオープンしているようだった。お姉さんは笑顔でチラシを配っている。よく見ると、地面には読み捨てられているチラシが何枚かあり、足蹴にされていた。まるで濁流だった。見渡す限りの人。人人人人人人人人人人違和感人人人。いま、違和感を見た。

奔流に逆らって、すいすいと泳ぐなにかがあった。それはよく見ると学生服を着た男子校生であった。人波をかき分け縦横無尽に動くその様は、マジカルラブリーの漫才みたいな動きでコミカルなんだけど、何故か人にはぶつからず、能のような繊細さで構築されていた。男子校生には奔流の裂け目のようなものが見えているのだろう、すいすいと足蹴にされたチラシに近づいてひょいと拾い上げると、またマジカルラブリーの動きで次のチラシへ向かう。そして、あらかたチラシを拾い終わると、何事もなかったかのように奔流の中に姿を消した。嗚呼、美しいチラシの君に幸あれ。今度見かけたら、美味しいドーナッツを上げよう。美しいチラシの君よ。