シュレティンガ―・無職

私は無職なのか、それとも。

5月17日であろう 〜機敏に動ける日。シュンシュンイタチ物語〜

朝、風切り音のようなもので目が覚める。ねぼけまなこでスマートフォンに手を伸ばし、時刻を確認するとアラームがなるちょうど1分前。何だか文明に勝った気がして気分がよい。今日はいつもより機敏に動けそうな正しい予感さえ覚えて、ベッドからシュンと起き上がる。風切り音。寝間着のまま、ペットの真っ青なザリガニが住んでいる水槽までゆく。ブルーベリーみたいに綺麗なコバルトブルーをしていて、お気に入りトンネルの中でスヤスヤ眠っている様だった。今日のわたしは文明だけでなく、野生よりも早起きらしい。水槽のふたをシュンと開け、ザリガニのエサをシュンと投げ入れる。風切り音。非常に良いペースで、生活のタスクをクリアしてゆく。

どうやら今日のわたしは、シュンシュンと風切り音が出るくらい機敏に動けているようだ。ぶんぶんと腕を振り、調子の良さを確認する。その動きは、さながらイタチのようにしなやかであった。となれば、次はコーヒーを沸かす。シュンとキッチンに向かい、つむじ風のようにコーヒーミルを回す。シュンシュンシュン。挽いた粉をドリッパーに移すと、ふわりとコーヒーの香りが漂い、良い朝が仕上がっていくのがわかる。こういう朝は、イタチが手間暇かけて作っていたのだなぁと気が付く。ケトルでお湯を沸かす。その間もシュンシュン動き、サラダを用意してパンを焼き、パンには虎の子のチョコレートスプレッドを塗る。そうこうしている間に、シュンシュンとケトルがお湯の到来を告げ、良い朝は最終段階を迎える。2匹のイタチは上機嫌だ。

ゆっくりと早く、矛盾した速度でコーヒーを淹れる。役目を終えたケトルはもうシュンシュン言わなくなっていた。わたしもイタチを終えて、席に着く。もうシュンシュンした所作は必要ない。予定外に素敵な朝ごはんなので、食べる時くらいはイタチではなく人間でいたい。今日はいい天気だ。コーヒーの湯気が揺らいだ。シュン。