シュレティンガ―・無職

私は無職なのか、それとも。

5月31日であろう 〜愛のあいさつ〜

現実世界において、人の第一印象は3秒で決まる、と誰かが言っていたような気がする。現実世界にはよくある、「仕方のないこと」のひとつだ。でもネットの出会いは、ポイフルの「がわ」みたいに固着して大切な部分を隠してしまう。シュレティンガ―の挨拶。あまーい「がわ」の中に入っているのは、ヒトなのか、グミなのか?そんなことを考えて、結局ヒトでもグミでも、堅苦しいことは全部すっ飛ばして、初手で好きなものを語るということが相手に対する誠意なのかなって、思ったりもする。よくお見合いの場(私は経験がないけれど、伝承によれば)で、「ご趣味は?」なんて聞くらしい。相手の好きなものを聞くことは、それすなわち人生について聞くことと同義なわけで、それでもし好きなグミの味が一緒なら、それはもうハッピーなのです。要は、最近ハマっている『Vtuber』についてのお話。

 

Vtuber(偶像)の在り方

経緯はがっつり割愛。重要なことは、私が社会活動を自粛しているさなか、ホロライブゲーマーズ所属のバーチャルアイドル『戌神ころね』さんにぞっこんという事なのです。彼女が作る、甘くて口当たりの良い「せかいかん」にあてられて、光って、光って、点滅して、夜な夜な配信することが多い彼女たちを追っているうちに、すっかり私は寝不足なのです。

私はそもそもアイドルだとか、いわゆる『推し』という存在を訝しんでいた。人は寄る辺にはならない、という私の格言もあるのですが、人は支え合うことは出来ても、一定の場所に留まることは出来ないと思っている。人の愛は充電器みたいなもので、満タンになったらまた何処かへ行ってしまうのだ。充電器はすぐに人の手で外されてしまって、中二病のこころは、その一面性の事実をかんたんに信じてしまう。そんな私が、まさかVtuberという偶像崇拝の儀を執り行うなんて。生贄の祭壇にゆびを捧げる日も近いのかもしれない。ゆびゆび。

 

 

コミュニケイション/2022

Vtuberさんの動画にはコメントを残すことが出来て、リアルタイムで反映されている。内容はもちろんVtuberさんも認識出来ていて、たまにコメントに対して反応を返してくれる。なんていうか、どれだけ技術が発展しても根っこはやっぱり、今まで私達が信じてきたコミュニケーションの根幹があるような気がして、たまらなく人間なことに安心するのだ。多分きっと、Vtuberさんを愛でることは2022年の近未来でもマイノリティなことで、私は心のどこかで空虚さの免罪符を求めていたのかも知れない。人もバーチャルも、必要なものは同じなんだよっていう、いいわけみたいなものを。

私が好きな『戌神ころね』というVtuberさんは、配信が開始されるとみんな一斉に「ゆびゆび〜」とコメントをする。この意味は、リスナーのみんなが自分の指を切って渡して、ころねさんはそれを配信中は氷漬けにして保管。配信が終わったら返してあげるね!だからちゃんと見ててね!っていう誓約の儀式らしい。なんとも理由が可愛らしいし、そんな血の通った約束がvirtualと現世を繋いでいるだなんて、すごいSFチックでドキドキするのだ。

 

月がきれいですね

配信中は、みんなが思い思いのコメントを残す。ころねさんの配信は、ほとんどが古いゲームのプレイ動画なので、こうすればクリア出来るんじゃない?っていうアドバイスだったり、そのゲームの思い出を語ったり、ころねさんが面白い発言をしたらみんなで「草」と笑いあったりもする。非常にわちゃわちゃしていて面白い。私はコメントをした事はまだないのですが、一方通行に見えて実は様々なベクトルに向いているコメントの群勢がひとつの芸術に思えて、なんていうか流れに一石を投じることが無粋な行為に感じてしまう。この間、こういうコメントがあった。

ころねさんが、可愛らしいころね鈍りで合いの手を入れながらゲームをプレイしている。皆んながコメントで「草」「草」「草」と草原隊形を形成し、ひまわりのように明るいころねさんの笑い声がおーしぇいと鳴り響く。どこまでも牧歌的。すると、おそらくそのやり取りが、月の琴線に触れたのであろうと想像します。ひとりのころねファンの方は愛の許容量を超えてしまい、溢れた感情は、自らの自我を崩壊させながら、最短距離の言葉となって捧げられたのです。

 

「私は47歳にしてハイハイしか出来なくなってしまいました」

 

私は目を奪われました。未だかつて、このような愛の表現があっただろうか。未だかつて、このような情熱的な愛をささやかれたことはあっただろうか。ここまでの愛を感じ取れる感受性は、どこで養われるのだろうか。嫉妬心。夏目漱石が「I Love You」を「月がきれいですね」と日本語訳したというお話はあまりにも有名だけど、こんな叙述的な「I Love You」の訳し方があっただなんて知らなかった。奥が深いよ、Vtuber。これからも推させていただきます。

ころねちゃん