シュレティンガ―・無職

私は無職なのか、それとも。

9月7日であろう 〜火吹き子〜

下の子の口まわりが何だか全てを破壊し尽くすオレンジのニュアンスで、近づいてみると小さな炎を吐いていた。呼吸するたびにゆらめくそれは、あまりにも美しい明確な殺意で、人々のまわりを明るく照らす殺意とは真逆の希望的何かであった。わたしの子は口から火を吹きながら、プラレールの線路を組み立て、電車で寿司を運ぶことを生業にしている。最近じょうずにおしゃべり出来るようになってきたのだけど、今日は言葉を発すると、ぼうぼうと口元の炎がにわとりみたいにがなり、それにかき消されてうまく声が聞こえない。自身のおかれた状況を知ってか知らずか、我が子は、ぼうぼう言いながら線路を指差し、何かをわたしに訴える。わたしは線路の作成を手伝おうとトンネル山を設置するが、その瞬間、口元の火力はいつか見たカムチャッカ半島で暮らす火吹き鳥みたいに大きくなり、わたしの設置したトンネル山を吹き飛ばした。どうやら怒っているようで、ぼうぼうと炎をあげてトンネルを指差している。わたしはお詫びにと、たまごボーロを口に入れてあげる。たまごボーロは口にする前に、炎で消し炭になってしまった。炎は気流を生み、花瓶に生けてあるカサブランカを可愛らしく揺らす。万物は炎に生かされているのだと悟り、わたしはひと息つくために、バニラ味のうずまきソフトを冷凍庫から取り出した。うずまきソフトは妖艶な冷気を放っており、何だか炎の形をしていることに気がつく。ひとくち、口にするとなんとも言えない到達感に包まれて、それを見た我が子もぼうぼうと興奮し、アイスをねだる。あなた火が出てるじゃない、と思いながら口元にアイスを近づけると冷気に押されて、炎は消えて無くなってしまい、我が子はアイスに文字通り夢中となった。わたしはふたたび冷凍庫から、今度はチョコレート味のうずまきソフトを取り出した。親子のアイスタイム。大人だけが、2種類のアイスクリームの味を楽しむずる賢さを持っていた。